Tokyo Birthdays  

リクツで説明するのはむずかしい、
けれど「至福」を感じる場所と時間がある

私たちを芯からぐっと強く、
時に優しく包み込み、引きとめてくれる風景。

東京で日々生まれるエントリエ的な一瞬を
言葉と写真でお届けします。

#11 晴海埠頭

玄関を出ると北風が冷たく、
やっぱりやめない?
と喉元まで出ました。

そういえば
行きたくなるのはどうしてかいつも冬で、
寒い時にわざわざ冷たい風に吹かれます。

日曜の午後、
車はにぎやかな新宿や銀座を

思いの外すんなりと抜けました。

勝どき橋を渡ると、急にしずか。

「夜には夜景がきれいだろうね」とは、
言われて初めて気がつきました。

たしかに、
恋人たちが通った形跡もあります。

車を出してくれた夫には悪いけれど、
1人で来るならバスがおすすめです。
できたら前方のタイヤの上の席に座って。

何もしない時間に向かって
運ばれていくのは気持ちのいいものです。

初めてここへ来たのは15年前。

周りは広大な空き地で、
消防庁の訓練所だけがポツンとありました。

今は建設中の建物とクレーンが連なっています。
オリンピックの選手村になるようです。

ちょっと大げさで、
好きな言い方ではないですけど、
アイデンティティを守るというのか。

1人になる時間を大切に思っています。

以前にここへ来た理由は、
ぜんぜん、おもしろくありませんから
書かないほうがいいでしょう。

アイデンティティが、アンティディイテに
なってしまったというようなことです。バラバラと。

海風に乗って、
答えも何も聞こえてきやしません。

少し、
来る前よりもすっきりしたかもしれませんね。

Ιスポットデータ
中央区、晴海埠頭客船ターミナル

■プロフィール■
文、写真 / 野上せい子
埼玉県生まれ。結婚を機に東京に住み始めて7年。写真学校卒業後、生花店勤務を経て昨年デスクワークに転職。出不精です。