Tokyo Birthdays  

リクツで説明するのはむずかしい、
けれど「至福」を感じる場所と時間がある

私たちを芯からぐっと強く、
時に優しく包み込み、引きとめてくれる風景。

東京で日々生まれるエントリエ的な一瞬を
言葉と写真でお届けします。

#15 新宿御苑

学生時代の友人と花見の話がまとまったころ、ソメイヨシノの開花も宣言されてしまった。約束は2週間後、6人みんなが予定を組み直すなんてことは大人にはできない。

八重桜もいいし、新緑でピクニックだってかまわないよねと言い合っていたけれど思いのほか春はもたもたしていてシートを広げた上には花がしっかり残っていた。

今まさに散り始めて、花びらが光る。

学校を卒業してあまり会わなかった時期もあるけど、ここ数年また集まるようになった。そういう動きってどこの集まりにもあって不思議だ。一人二人抜けたりみんな会わなかったり。

どこにでもある30代女だけの、ノンアルコールの花見にとくだん盛り上がる話題はなかった。でもとてもおだやかだった。

(新宿御苑は酒類は持ち込み禁止である。ノンアルコールで会うのもめずらいしいし、お金払って公園に入るなんて、学生時代にはない発想だった。)

もう新しい友だちはいらないと数年前にふと思ったことがある。極端なことだから声高には言わないけれど本当は今も思っている。

人間関係は広がれば広がるほどいい、出会いは多いほうがいい思う人も多いようだけど、私はもうじゅうぶん、今までいい友だちに恵まれたと思う。

それぞれのペースでたまに会って、そのあとで話したことを思い返したり、しばらくしてどうしているかなと葉書を出したりしているとまた次の桜が咲いてしまう。ていねいに話したり約束したりしたい。

そういう自分で作った壁をひょいと乗り越えてしまう魅力を持つ人もふいにあらわれる。

Ιスポットデータ
新宿御苑

■プロフィール■
文、写真 / 野上せい子
埼玉県生まれ。結婚を機に東京に住み始めて7年。写真学校卒業後、生花店勤務を経て昨年デスクワークに転職。出不精です。