先日、南青山にある「東屋」さんというお店に、吸い込まれるように入っていきました。器やお鍋、やかんなど、職人さんの手でつくられた暮らしの道具を扱っているお店です。
お店の真ん中には、畳の腰掛けスペースがドンと構えています。すり鉢を選んでいたら、ひとつひとつ個体差があるからと全部出して並べてくれたり、雨の日で荷物が多いと「ここに置いてくださいね」と声をかけてくれたり。昔のおうちの居間みたいで、すっかり長居しちゃいました。
お店の風景に溶けこんでいた茶箱
その畳に腰掛けてお会計を待っていたとき、ふと見上げた先に積み上がっていたのが、茶箱でした。目には入っていたのに、お店の風景にすっかり溶けこんでいて、売り物だとは思っていなかったんです。

「これって売り物ですか?」とお店のお姉さんに聞いたら、「そうなんです、これも売ってるんですよ」と。私、ほんとに収納グッズマニアなんです。自分でもカゴを編むし、収納するものもなるべく自然素材でそろえたいと思っていたので、「めっちゃいい!」とすごくうれしくなりました。
茶箱は、海外の方にもすごく人気なんだそうです。抹茶がブームになっていたり、わびさびの精神や神社仏閣に惹かれたりと、日本の伝統的な文化を自分の暮らしに取り入れている海外の方が増えている、と。日本の職人さんがつくった茶箱も、そのひとつとして愛されている。それを日本人の私が知らないまま、使わないままでいるのは、なんだか許されない気がしちゃって。この日は雨で持って帰れなかったので、次こそは絶対にとお店を後にしました。
50年、100年もつ箱と、これからの家づくり
お姉さんが教えてくれた東屋さんのコラム「製造の現場を巡る② 土屋製函所(静岡県藤枝市)」によると、茶箱は杉板の内側にトタンを貼り、外側には和紙を生麩糊で貼って仕上げるのだそう。和紙も糊も天然素材だから、箱の呼吸を妨げないんですって。作り手さんいわく「湿気を嫌う米とか海苔とかには、とくにいいでしょうね」。衣類や書類を入れて使う人もいるそうです。
つくり方にもびっくりしました。杉の板を雨で濡らしては干して丈夫にし、そこから職人さんがひとつひとつ組み上げていくんです。中でも心に残ったのが、この言葉です。
手作りだから、手をかけなきゃ、満足なものはできない。安い作りをしているものは、すぐに傷んで返品になる。雑な仕事をすると、あとが大変。ちゃんと作っていれば、50年、100年は持つ箱だから
(東屋「製造の現場を巡る② 土屋製函所(静岡県藤枝市)」より)
私も家づくりのお仕事をしていて、孫の代まで引き継げるおうちをつくりたいと思っているので、まさにそのとおりだなって。長く使えるものだから、いつか子どもたちにも受け渡せたらいいな。
とはいえ、プラスチックのものや手ごろな価格のものが悪いと言いたいわけではないんです。茶箱の中を仕切るのには自然素材以外のものを使うこともあるし、シンクの下や洗面台の引き出しのように液漏れが心配な場所では、私もポリプロピレンのケースを使っています。海で集めたごみを砕いて材料にし、循環させながら収納グッズをつくっている会社もあるんですよね。
だから、適材適所。そのうえで、ソファに座ってふと目を向けたときに目に入る場所には、なるべく自然素材のあたたかみがあってほしいなと思うんです。
実は現在、ベッドサイドやキッチンに茶箱のサイズに合わせた収納スペースを、設計しているところです。整理収納は家ができてからも力を発揮するけれど、お気に入りの収納グッズから寸法を割り出せるのは、家づくりの最中だからこそ。収納グッズに合わせて家を設計する、そんな順番があってもいいと思うんです。家をつくる前にお気に入りと出会っておくことって、すごく大事なんだなと改めて感じています。
茶箱に使われている杉は、実は我が家の床に選ぼうと思っている素材でもあります。八王子産やあきる野周辺で採れた杉に、天然素材のオイルを塗った床材です。
杉は、器を落としても割れないと言われるほどやわらかい木。足腰に負担がかかりにくく、足の裏から伝わるやわらかな感触は、ほかの木ではなかなか味わえません。使い込むうちに木目が浮かび上がり、少しずつ自然な凹凸ができていく「浮造り(うづくり)」の風合いも大好きなんです。
だからこそ、そのやわらかい杉を濡らしては乾かして硬くし、茶箱や家具までつくれると知ったときは本当にびっくり。やわらかいままでも、硬くしても使える杉と、ますます仲良くなりたくなりました。
そんな今日の「暮らしのひとしな」は、もちろん東屋さんで出会った茶箱。
風景に溶けこむほど暮らしになじむ佇まいと、50年、100年ともにできるつくり。これからの暮らしの真ん中に置きたい、お気に入りです。



