手芸が得意な母の影響を受け、小さな頃から手を動かすことが大好きだったという、いとう ゆうこさん。現在は刺繍家として活躍し、自身の作品制作のかたわら、刺繍教室「see saw embroidery」も開催しています。そんないとうさんに、刺繍を始めたきっかけや、制作にかける思いを伺いました。

きっかけは母の手仕事から

愛しいものたち_いとうゆうこ_刺繍作家

母が洋裁や手芸を得意にしていたので、小さな頃からその影響を大きく受けてきました。刺繍はもちろん編み物などの手作業は身近にあり、手を動かすことが大好きでした。

20代後半に衣装制作の仕事をしていて、そこでプロの仕事に触れたことで自分の手に職をつけたいと強く意識するようになりました。そんな中、以前から気になっていたフランスのオートクチュール刺繍の技法のひとつである、リュネビル刺繍をされている方に出会い、教室を探し始めたことがきっかけでこの刺繍を始めました。

オートクチュール刺繍と言葉にするとひとつの技法のように思えますが、実際はかぎ針を使うリュネビル刺繍以外にも、通常の針と糸を使って縫い進める技法も使用しています。材料も様々で、「これを使わないと」などの決まりが少なく、多様な技法や材料を自分なりに組み合わせて楽しめる部分にとても惹かれています。

リュネビル刺繍で有名なメゾンなどでは、作られる洋服に3Dプリンターで作った材料を取り入れることもあって、そんな常に新しいことに挑戦している姿はとても印象的です。

インスピレーションをふくらませながらモチーフを考える

愛しいものたち_いとうゆうこ_刺繍作家

図案を考える時は技法や素材を決める前に描きたいものや色をざっくり決めて、そこから物語を掘り下げていきます。

例えば私が開催している刺繍教室のカリキュラムとなった図案の一つは冒険や探検をテーマにしているのですが、実はこの少し前に刺繍教室の生徒さんからエルマーの冒険のお話を伺っていて。

そのお話がとても楽しく魅力的だったので、自分でも本を借りて読み返しました。そこから「自分が冒険に出てジャングルを探索したら」という物語が浮かび図案を書いていきました。

さらに植物図鑑などを見ながら実在する植物をスケッチして、その物がもつ線や特徴を確かめていきます。人間含め、自然界に定規で書いたような直線ってなくって。真っ直ぐにみえても実際はちょっとした膨らみや揺らぎがあって。その曖昧な部分を描き忘れないようにしています。

材料や色を選ぶ時に意識しているのは、過剰にしすぎないことです。多くを使いすぎないように、引き算をしながら進めていくように気をつけています。どうしてもいろいろ足していきたくなるので、迷った時は作業している刺繍を目の届かないところに隠して、何日か距離を置きます。数日後に見返すことで客観視できるので、気になっていた部分としっかり対峙することができます。

あとは最後に違和感をつくっておく。なんでこれを付け加えたの?といったハテナがあることで完璧にしない、完成させない。そんなことを大切にしながら制作しています。

愛しいものたち_いとうゆうこ_刺繍作家
骨董市で出会ったというドイツの花器。「刺繍でガラス素材を扱うことが多いこともあり、透け感のあるものはつい集めてしまいます」(いとう ゆうこさん)

余白を残すことを大切に

試作を経て、完成した図案に刺繍している時間は大好きな時間です。どんな色を入れていこうか、どの素材を使おうかなどを考えながら進めていくので失敗や修正も多いのですが、その分得るものも多くワクワクしながら進めています。

完成はさせず、少し余白を残した状態で作業を終えるように心がけています。完成させようとすると、デザインも素材もついつい盛り込みすぎてしまうので、作業終了後に「何かあとひとつあってもよいのかも…」と思った状態で自分を引き止めるように努力しています。

愛しいものたち_いとうゆうこ_刺繍作家

思い入れのある作品は、はじめて作った立体物でしょうか。コロナ禍で家にいることが増えたとき、せっかく時間があるならとずっと制作してみたかったものに挑戦したく作った花器です。形はいびつだし荒削りですが、完成した時とても大きな達成感があったのを今でも思い出す、初心に戻れる作品です。

立体作品や洋服への刺繍にも挑戦したい

愛しいものたち_いとうゆうこ_刺繍作家

引き続き立体作品は作っていきたく、いろいろな形に挑戦しています。ガラスビーズという固い素材を使って、丸みのある柔らかいシルエットを出すことが今の目標です。

あとは洋服への刺繍です。もともとファッションデザインに興味があって専門学校に通っていたので、着るものへの興味は常にありました。自分がこの仕事を始めてからは特に洋服の刺繍に目が行くようになり、いつか作ってみたいなと。そのために今は日本の材料や素材をもっと知りたいと思い、いろいろと勉強中です。

お知らせ

2026年12月11日(金)〜13日(日)東京にて友人と作品の展示販売を行います。
当日は刺繍のワークショップも開催予定です。
開催場所や時間の詳細は、決まり次第SNSなどでお知らせしていきます。

いとう ゆうこ
服飾専門学校を卒業後、アパレルデザインや衣装制作、海外留学を経て2011年からmaison des perlesにてオートクチュール刺繍を学ぶ。同社にて講師として刺繍教室に参加後、現在は作品制作と並行して自身の刺繍教室を開催。フランスの伝統技法の1つ、オートクチュール刺繍を用いて暮らしを彩るアイテムを制作しています。

☑ WEB SHOP :yukoito.theshop.jp
☑ Instagram :@seesaw.embroidery