

今年の4月から9月にかけて金沢21世紀美術館で開催された企画展「路上、お邪魔ですか?」。SABOTENSの村田あやこが出展作家の一人として参加しました。
企画展への参加をお声がけをいただいたのは、昨年秋ごろ。その後、下見や準備、設営などで計5回、金沢を訪れました。ここ一年でいえば、実家のある九州以上に金沢へ足を運んだことになります。もはや第二の故郷。
今回の「まちのミカタ」では番外編として、展示を通してご縁の生まれた金沢のまちについて、筆者・村田の視点で綴っていきます。
水の音が聞こえるまち
金沢のまちを歩いていて最初に驚いたのは、「水の音があちこちから聞こえてくる」ということ。住宅地や繁華街、あるいは美術館のすぐ近くなど、いたるところで、ふとした瞬間に水面が現れるんです。
例えば滞在先のホテルから美術館までの道のりで、最初に聞こえてくる「水の音」はこちら。

建物と建物の間に走る水路に、「ざあ〜」「ざあ〜」と、豊かな水量の水が威勢よく流れています。湿気で苔むす石垣に、水面へ木陰を落とす木々。目にも肌にも涼やかで気持ちいい。
行って驚きましたが、金沢は街なかを網目のように水が流れる「用水のまち」でした。
金沢の用水は、犀川・浅野川などの水を引き込み、農業や生活などに利用してきた水路です。その歴史は古く、城下町の形成とともに整備・発達していきました。
かつて都市のインフラとして重要な役割を担っていた用水が、数百年の時を経た今も街なかに流れ、金沢らしい景観の一部として大切に受け継がれています。


ここも、美術館までの道中にある用水。建物がひしめく飲食店街の裏手を、ひっそりと流れています。
用水の上に渡された、多種多様なデザインの「私有橋」も、金沢のまちを彩る風景の一つ。
水路を受け止める石垣には、植物がのびのび繁茂しているのもいいなあ。

美術館の目と鼻の先にある用水では、夏の間、たくさんの風鈴が掲げられていました。水の流れる音と、風鈴のチリンチリンという音が重なり、あたりには清涼感が充満。
意外にも夏はしっかりと暑い金沢。美術館までの道中、何度もここで立ち止まっては涼をチャージしていました。
市街地では、こうした水路に蓋がされ、暗渠(あんきょ)となっている場所も珍しくありません。一方、金沢では、一度閉じた蓋を再び開け、「開渠(かいきょ)」に戻した場所もあるとか。市と地域の方々が協力しながら、金沢らしい水辺の景観が保たれています。

用水のそばには、木陰で休めるポケットパークも。
一息ついて休める「余白」のような場所がまちのあちこちにある金沢。足を止めてざあざあという水音を聞いているだけで、心の中の淀みまで流してもらえるような気持ちになるから不思議です。
用事はなくとも、ただ「いる」だけで深く息が吸えるような、心地の良いまちなんです。
観光地の向こうにある、暮らしの風景
さて、今回参加した「路上、お邪魔ですか?」は、自由と邪魔が揺らぎながら同居する「路上」をテーマにした展示でした(展示の詳細は、金沢21世紀美術館のホームページをご参照ください)。

私は作品として、はじめてのインスタレーションに挑戦。美術館の中と路上をつなぐ企画として、街なかのあちこちに鉢植えを置かせていただきました。
黄色い漬物樽を転用した鉢。下町の園芸風景でおなじみのアレに野菜を植えて、路上の片隅にちょこんとお邪魔させていただきました。

美術館の展示スペースでペットボトルのお水を販売し(ラベルはSABOTENSのよっちゃんこと藤田さんがデザイン!)、お水を買った来場者は、街なかの樽入り野菜にお水やりできる。リアルな路上の園芸風景に、水やりを通して少しだけ関われるという企画です。

なかでもたくさん鉢植えを置かせていただいたのが、ひがし茶屋街。出格子や石畳といった伝統的町並みが保存され、国内外から多くの観光客の方が訪れる地域です。

ご縁があり、このひがし茶屋街周辺の10カ所ほどに、樽の鉢植えを置かせていただきました。
お米屋さんに漬物屋さん、酒屋さん、お豆腐やさん、一般のお宅。いずれも長く金沢の地で商いを営み、暮らしてきた方々です。

最初は「断られるかな……」と、正直なところドキドキしながらご相談をしましたが、ありがたいことに、どこも「いいですよー」とニコニコ鉢の設置を受け入れてくださいました。
「金沢21世紀美術館の企画ならば喜んで」というお声も多く、美術館がまちの人々に愛されていることを感じました。ありがたくも、それにすっかり乗っからせていただく形。
設置を快諾してくださったばかりか、「近所の●●さんも置いてくれると思うよ」と、その場でご近所さんのお宅の玄関をガラガラと開け、交渉してくださった方まで。

いち観光客として行っていたなら、「ああ、風情のある街並みだなあ」で終わっていたかもしれません。一歩踏み込んでみると、生活と地続きの場所に新しいものを受け入れる住人の皆さんの包容力や、意外にも下町的な人間関係が築かれていることなど、嬉しい発見ばかりでした。
野菜が育った頃、何軒かのおうちにご挨拶に伺ったところ、「野菜育てるの、楽しかったですよ!」というお声まで。ご近所さんに育て方を相談しながら、枯らさないように、枯らさないようにと、大切に育ててくださったとのこと。ウウウ……ありがとうございます(涙)

そんなひがし茶屋街。金沢有数の観光名所ですが、ひとたび目を向けてみると、あちこちに愛らしい生活の痕跡が潜んでいます。
そして私はむしろ、こういう「普通に暮らす普通の風景」にグッと来てしまうたち。

石臼らしき円柱状の塊の上に置かれた、カーネーションの鉢植え。ピンクと赤の可愛らしい鉢には、「おかあさん ありがとう」のメッセージカードが刺さっています。母の日の贈り物でしょうか。

網戸に何枚も貼られた金属製のプレートをよく見てみると、なんと「石川県」の形!

そして「こしひかり」の袋が、排水管の水を地面へ導くパイプとして、第二の人生。

ブロックの穴の中の十字架は、支柱でつくったもの?
当たり前ですが、観光地にだって、そこで暮らしている人がいるんですね。
路上に漏れ出た暮らしの痕跡に目を留め、その向こうにいる人の姿を想像してみる。すると、「観光地」という言葉だけではくくれない、金沢のまちの表情が見えてきます。
何度も歩いて、自分だけの地図ができていく
家の軒先や路地の片隅に潜む、愛おしい暮らしの痕跡。観光地とは違う金沢の生活風景に目を留めるきっかけをくださったのが、金沢で建築家として活動される山本周さんです。
山本さんは「路上、お邪魔ですか?」展の会場設計にも携わった方。私の展示空間の企画や設営にも入ってくださいました。

山本さんは「金沢民景」という活動を主宰されています。「金沢民景」とは、金沢の住人の方々が暮らしの中で生み出してきた風景を収集・記録する取り組み。見つけた風景はテーマごとに分類され、かわいらしいZINEにまとめて発表されています。

滞在中は、山本さんと何度かまちを歩く機会に恵まれました。
金沢の生活風景に日々アンテナを張っている山本さんと見つけた“民景”を、少しだけおすそ分けします。

「うわ、これは……!」と山本さんが目を見張った光景。
日付とともに、「すてるな」「すてないで」とマジックで書かれたペットボトルや缶が、観光地一角の掲示板にぶら下がっています。
「いつも同じ飲み物を捨てる人がいるんでしょうね……」と、ポイ捨てに苦労しながら空いた缶やボトルをせっせと掲示板に結ぶ人の姿を想像します。
ポイ捨て、だめ、絶対!

その後に訪れたのが、とあるお寺さん。お地蔵さんの並びに立派な鉢植えがずらりと並んでいます。
虫よけと水はけを兼ねて、鉢の下には金属製のプレートが渡されています。
お寺の方いわく、植物は「いただきものが多い」とのこと。お墓に供えられた仏花が長く水に浸かっているうちに根が出て、鉢に植えたら大きくなった……というものもあるそう。
いろいろな人や植物が集まる、お寺ならではのエピソードです。
道を歩いていると、勝手口と道の間の水路に渡された「ミニミニ私有橋」も発見。かわいい。


その後は、とある酒屋さんを訪問。鉢を置かせていただいたうちの一軒でもあります。
トマトにユーカリ。お店の周りには、たくさん鉢植えが並んでいます。

トマトについては、驚きのエピソードが。
もともと鉢植えで育てていたトマトを飼っているカメに食べさせ、そのカメの糞を土の養分として鉢にまいたところ、なんと糞に含まれていた種からトマトが生えてきたのだとか!
一度カメの体内を経て、再び復活したトマトだとは……!

そして鉢の中にふさふさと生えたコキア。こちらはどこからともなくスキマで育ったコキアの種が、ひょいっと鉢の中に飛んできたのだとか。よく見ると、鉢の左側に小さいコキアがいます。こいつはもしや、鉢から再びスキマに旅立ったもの?
鉢からカメに。カメから鉢に。そしてスキマから鉢に。鉢からスキマに。路上で自然の営みが循環しています。
「循環の酒屋ですね」と、山本さんとしみじみ語らいます。
それまで金沢を訪れる機会はほとんどなく、最初は位置関係すらおぼろげでした。それが二度、三度と訪れるうちに点と点がつながり、歩いた道のりを少しずつ色鉛筆で塗っていくようにして自分だけの地図ができていく。
お気に入りの場所ができ、そこで暮らす人の表情が浮かび上がり、二次元の地図が立体的になっていく。何度も歩き、まちの人に会うごとに、少しずつ自分だけの金沢のイメージが形作られていきました。
いま暮らす場所とは別に馴染みのまちができるのは、自分の居場所の選択肢が増えたようで、嬉しいものです。
これからもいろんなまちを歩いて、暮らしを感じ取り、「心の居場所」をたくさん増やしていきたいと思います!

SABOTENS / SABOTENS
2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実(よっちゃん)と、「路上園芸学会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。… 会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。

