村田 あやこ
あやちゃん/記事を書いた人
村田 あやこ / Murata Ayako
ライター
お散歩やまちの植物などのテーマを中心に、インタビュー記事やコラムを執筆。… 著書に『たのしい路上園芸観察』(グラフィック社)、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』(雷鳥社)、『緑をみる人』(雷鳥社)。「entrie magazine」や「散歩の達人」などで連載中。
サトウ アヤコ
ゲスト
サトウ アヤコ / Sato Ayako
「日常記憶地図」主宰
「日常記憶地図」、「カード・ダイアローグ」、「マイクロ・ストーリーズ」… など複数のプロジェクトを継続しながら、言語化や媒介的なコミュニケーションについて探求している。地図をなぞることで「場所の記憶」を思い出す手法である「日常記憶地図」を2012年に開発し、複数の地域で展示やプロジェクトとして実践している。主な展示に「MOTサテライト 2019 ひろがる地図」(東京都現代美術館、2019)、「美術館のある街・記憶・風景『日常記憶地図』で見る50年」(長野県立美術館、2021)、OPEN SITE 7 「日常記憶地図『“家族”の風景を“共有”する』」(TOKAS本郷、2022)。
細野 鴨
細野/撮影・編集した人
細野 鴨 / Hosono Kamo
WEB編集者、ディレクター
札幌出身、東京在住。フリーランスのWEBエディター/ディレクター。エントリエでは… 副編集長としてWEBマガジンをお手伝い中。好きなものは鴨せいろ。「おいどん」という猫を飼っている。

同じまちを歩いていても、目に留まるものは人それぞれ。今回は、「日常記憶地図」を主宰するサトウアヤコさんをゲストにお迎えしました。「日常記憶地図」は、ある時期によく行った場所や通った道を地図に描き込み、サトウさんのファシリテーションのもと、そこでの出来事や風景を思い出すプロジェクトです。
サトウさんと一緒に訪れたのは、門前仲町から清澄白河にかけてのエリア。川沿いの小道を歩き、桜並木や古い橋、思いがけない場所に育つ植物を眺めながら、目の前の風景と、そこに重なる誰かの記憶をたどってみました。

川沿いの桜並木で涼を取る

門前仲町から清澄白河にかけては、サトウさんが以前、地域にゆかりのある人々の記憶をたどった地域でもあります。2019年、東京都現代美術館が主催する「MOTサテライト2019 ひろがる地図」に作家として参加し、この地域に暮らす方や、かつて暮らしていた方にお話を聞きました。
聞き取った記憶を通して見えてきたまちの風景は、冊子『日常記憶地図 深川・清澄白河編 1960-2019』にまとめられています。

門前仲町の石島橋から、お散歩がはじまりました。

村田:サトウさんは、まちを歩くとき、いつも注目しているものやテーマはありますか?

サトウ:最近は、誰かがいた痕跡を探しながら歩くことが多いですね。

村田:いいですね!今日も、いろいろな「痕跡」を探したいです。

隅田川から枝分かれした大横川沿い横の歩道を行きます

江戸時代から、船で物資を運ぶ拠点として栄え、材木業も盛んだった門前仲町・清澄白河・木場の一帯。歩き始めるとすぐに、水辺の小道が見えてきました。

村田:このあたりは、川が多いまちですね。あ、川沿いに気持ちよさそうな小道がありますね。

サトウ:道沿いに桜の木が生えてますね。

村田:本当ですね。向こうの方までずーっと、桜並木。

サトウ:前にこの辺りを歩いた時、どの川沿いにも桜並木があったのが印象的でした。

村田:お花見の時期は壮観でしょうね!

サトウ:そうそう。川に桜がせり出して。

サトウ:木の下は涼しいですね。水面が近い。

村田:本当に。日差しの下とは、大違いです。最近、夏の暑さが厳しいので、木の下に入ると命拾いする気持ちです。

村田:あ、犬の看板にパンクな落書きが……。そういえば、まちの何気ないものを観察するのが好きな人の中には、犬のふんの始末を呼びかける看板を撮り続けている方もいますね。

サトウ:村田さんは、いつから路上観察に目覚めたんですか?

村田:路地や家先の鉢植えなど、「路上園芸」が気になり始めたのは16年くらい前です。もともと大学時代に地理学を専攻していて、現地を歩いて調べたり、路上のなにかに注目する人が周りに多かったんです。もっとさかのぼると、父が宝島社の『VOW*』が好きで、実家にずらりと揃っていました。小さい頃から読んでいたのも、影響しているかもしれません。

*VOWとは……まちで見つけた面白い看板や誤植などを集めた、宝島社の読者投稿企画。書籍にもまとめられている。現在は『sweet』で連載継続中。

村田:サトウさんも、路上観察に興味があったと伺いました。

サトウ:中高時代、赤瀬川原平さんが尾辻克彦の名義で書いた『東京路上探検記(新潮社)』が好きで、愛読していました。身の回りの何かを見るより先に、本を読んで「なんて面白いんだろう」と思ったんです。それまでニュータウンにずっと住んでいて、あまり古いまちに住んだことがなかったので、本を通して、まちのディテールの面白さを知りました。

村田:赤瀬川さんを筆頭に、まちの何気ないものの面白さを見つける「路上観察学会」が取り上げる風景は、ニュータウンというよりは、長く人が住んでいるようなまちが多いですよね。

サトウ:「日常記憶地図」で清澄白河の方々にインタビューしたときは、「こういうところを散歩できる暮らし、羨ましいな!」と思いました。

村田:本当に、日々の生活圏にこんな小道があったらいいですね。

サトウ:犬の散歩やランニングを、こんな気持ちいい川沿いでできるんですもんね。水位が調整されているからでしょうか、水面も穏やかですね。

村田:確かに。穏やかな流れですね。

村田:わ、すごい。屋根の上が草原みたいになっています。

サトウ:すごい。あまり見たことないです。

村田:あえて生やしてるんでしょうか。

サトウ:自転車置き場?

村田:自転車置き場の屋根ですね。

サトウ:けっこう珍しくないですか?野生の「タンポポハウス*」みたい。

*タンポポハウスとは……建築史家・建築家であり、路上観察学会の発足メンバーである藤森照信の自宅。屋根にタンポポが植えられている。

村田:周りから種が飛んできたのでしょうか。年月がたつとどう変わるのか、気になります。

誰かの記憶をたどること

「日常記憶地図」では、地図に描き込んでもらった場所や道について、そこでの思い出を詳しく聞きます。その後、サトウさん自身も地図を手に現地を歩き、聞き取った記憶と目の前の風景を照らし合わせていきます。

村田:「日常記憶地図」で誰かの記憶をたどるときは、その方が地図に描き込んだ場所や道を実際に歩くんですか?

サトウ:そうなんです。それがけっこう楽しくて。目の前に見える景色とは違う、その人の記憶の中の風景を地図でたどりながら歩いているので。

村田:時代が違うと、地図に描かれたものとは、まったく違う景色が広がっている場合もありそうですね。

サトウ:知らない土地の道や場所が、少しずつわかってくる途中って、ちょっとしんどいけど楽しくないですか?そういう楽しみもありますね。

村田:川はお好きですか?

サトウ:水が流れる様子が好きなのかもしれません。こんな道、通勤とかで通りたいですよね。

村田:通りたいです!犬を飼っていたら、この道を一緒に散歩したいです。

村田:船が止まってますね。

サトウ:川の仕事の船でしょうか。こういう場所が、ちょこちょことあるんです。

東富橋(江東区富岡2丁目13−5)

村田:橋が見えてきました。「震災復興橋梁」と書いてありますね。

サトウ:関東大震災のあと、復興事業の一環でつくられた橋なんですね。

村田:立派な橋ですね!そんなに古いものだったとは。

大横川と平久川の合流地点

村田:うわー!川が合流しています。壮観ですね!

サトウ:この合流する感じ、ちょっとめずらしくないですか?面白いですよね。

村田:「日常記憶地図」の清澄・深川編でインタビューした方々も、川の話をよくしてくださったとおっしゃっていましたよね。

サトウ:川があったら、横を通りたくなるような気がしますよね。

村田:確かに、自然と心地よく感じますね。水面も穏やかで落ち着きます。

サトウ:昔の深川は水害も起きやすかったそうですから、この状態にするまでに大変な工夫を重ねてきたんでしょうね。

村田:そうした工夫の積み重ねが、この穏やかな水辺の風景につながっているんですね。

目の前の植物に重なる家族の思い出

村田:うわ、木がフェンスに食いついていますね!

サトウ:だいぶ飲み込んでますね。

村田:逆上がりしてるみたいです。大変なことになってる……!

サトウ:今日歩いていて気づきましたが、私は最近、誰かが話してくれたことの痕跡を探して歩くことが多いんです。だから、周りのものを見ているようで、見ていないのかもしれません。

村田:目の前にあるものを見るというより、人の記憶に思いを馳せながら歩いているんですね。

サトウ:見ているんだけど、宙を見ているような感じなんです。

村田:今はない風景を思い浮かべながら歩いている、ということでしょうか。

サトウ:そこに実際にあるものに、ちゃんと目を向けているわけじゃないのかな、と今思いました。

村田:私はむしろ、目の前にあるものにばかり目が留まってしまって。同じ場所を歩いていても、目を向けているものが違うのかもしれませんね。

サトウ:あ、この木はサルスベリ?

村田:サルスベリだと思います。濃いピンクの花がきれいですね。記憶の話でいうと、植物にもご家族の思い出が込められていることがあります。家先の植物について伺うと、自然とご家族や、亡くなられた方のお話になることがあって。

サトウ:一つの植物にギュッと詰まってるんですね。

村田:漬物樽に植えられ、何気なく置かれていたカエデについて、おうちの方から「65年前、田舎から上京するときに持ってきた小さな苗から育ったんです」と聞いたこともありました。お話を聞かなければ、そんなエピソードがあるなんて知らずに通り過ぎていたと思います。
次にその場所を訪れると、ご本人がいなくても、お顔が浮かんでくるようでした。

サトウ:水やりする日もしない日も、おうちの方は何らかの形で植物と毎日触れ合っているわけですもんね。

村田:小さな鉢の中に、記憶がギュッと詰まっている感じがします。「亡くなった父が育てていたクンシランだから、もったいなくて植え替えられない」とか、「結婚記念に育て始めた桜の木が大木になった」とか。鉢植えが街路樹のような大きさにまで育っていることもあって、東京でこんなことがあるんだと驚きます。

サトウ:植物が大きく育っても受け入れられる場所だと、年月とともにそこまで育つこともあるんでしょうね。清澄白河も、こういう川辺でこっそり植物を育てたら、大きく育ちそうです(笑)

村田:本当ですね。もしかしたら、1本くらい紛れ込んでるかもしれませんね(笑)

歩くと見えてくること

村田:まちを歩きながら記憶をたどるとき、どんなものがきっかけになるんでしょうか?昔の地図だと、描かれた建物などが、もう残っていない場合もありますよね。

サトウ:地図がある場合は、まずその場所に行って、周りを見渡して古い建物を探したりします。そういう目で見ると、不思議と見つかるような気がします。

村田:古い建物があれば、「その人も見たかもしれない」と、目の前の風景と記憶を結びつけていくんですね。

サトウ:そうやって、歩きながら結びつけている気がします。「あの人が言っていたのは、これかもしれない」と。「かもしれない」を重ねて、インタビューの記録と照らし合わせるうちに、後からわかることもあります。

村田:そうなんですね!

サトウ:「日常記憶地図」のインタビューでお話を聞くときは、記事などをつくるための一般的なインタビューとは違って、聞き手の私が「わかっていない」ということも、けっこう大事だなと思っています。

村田:事前に綿密に下調べをするというよりは、その場のお話を大事にするんですね。

サトウ:その土地のざっくりとした下調べはしますが、わかるように説明してもらおうとは、あまり思わないですね。

村田:インタビューの目的が違うと、聞き方も変わるのでしょうね。

サトウ:私にわかるように話してもらうより、その人が思い出すままに話してくれるほうがいいんです。そのときにわからないことがあっても、気にせずお話を聞きます。後で文字に起こして、郷土史を調べたりして、時間が経ってから初めてわかることも多いんですよ。記事などにまとめるためのインタビューとは、また違いますよね。

村田:言葉になってないものを探す、ということでしょうか。

サトウ:語り手はご自分の記憶を話されているので、説明が省かれる方がよい時間だ思っています。聞いた時点では何のことかわからないんですが、実際にその場所を歩いていると、それが急にわかることがあるんです。

村田:「この場所の話をしていたんだ!」って。

サトウ:語られていない部分が埋まっていくような感じがしてます。

村田:なかなかできない体験ですよね。

サトウ:時間はすごくかかるんですけど、楽しいんですよ。

村田:地図とエピソードが、どこかでつながる瞬間があるんですね。

サトウ:その土地のいろいろな人の話もつながってきますね。そうやってその土地のことをある程度わかってくるまでに、数カ月かかることも。

村田:人の記憶をたどって歩くのは面白いでしょうね。いろいろな人の思い出が、サトウさんの中に少しずつ積み重なっていくんですね。

サトウ:そうですね。だからこそ、やっていて面白いんだと思います。私は例えば一人旅で、現地の人と急に仲良くなって飲みに行く、といったことはあまりできません。でも、インタビューした後で歩くと、その人の視点でその場所のことがわかってくる。自分には、他の方法では難しいかなと。

川沿いの暮らしを想像する

村田:こんなに長く川沿いを歩くことはめったにないので、新鮮で楽しいです!東富橋に亀久橋。一つひとつの橋にも名前がありますね。地元の方の川の思い出には、どんなものがありましたか?

サトウ:若い頃、散歩をするのが習慣だったとか、中学生のときに自転車で川沿いの道を走って遠くまで行ったとか。桜を楽しみにしていたとか、全員何かしら川との関わりがあった気がします。

村田:この辺りは、川も道も広いですね。

サトウ:木場ですし、材木を運ぶなら、道が広いほうがいいですもんね。

村田:確かに。材木のまちとして栄えたことが、まちの道や区画のつくられ方とつながっているのかもしれませんね。

村田:おや、気になる園芸スポットを発見しました。木馬が半分朽ちています。

サトウ:ミルクを入れる容器が鉢になってますね。

村田:世界観がありますね。

サトウ:これは?

村田:飯盒っぽいですね。キャンプなどでご飯を炊く容器が、植木鉢代わりに使われて、つるされています。かわいい。素敵な園芸スポットでした。

村田:今日はありがとうございました!便利な場所なのに、緑が多くてのびやかで、気持ちのいいまちでした。

サトウ:川も道も広かったですね。

村田:川があると、不思議と落ち着きますね。いつもは路地を歩くことが多いので、新鮮でした。路地は目に留まるものがたくさんありますが、川には、何もない水面の広がりがあって、余白を感じました。想像が膨らむというか。

サトウ:景色が大きく変わるわけではないけれど、それも楽しかったですね。

村田:このお散歩ルート、夏にぴったりですね。

サトウ:車も通らないから、気持ちが穏やかになれますね。

村田:清澄白河に住むとしたら、どんな場所に住みたいですか?

サトウ:どの辺りがいいかな……やっぱり川沿いはいいですよね。清澄公園の近くの、川辺のマンションとか。

村田:ああ、いいですねえ。

編集後記(細野):
「見ているんだけど、宙を見ているような感じ」というサトウさんの言葉に、思わずうなずきました。鉢植えや道に落ちているものなど、日々足元の小さな出来事に目を凝らすSABOTENS。目の前にはない、誰かの記憶の中の風景を重ねながら歩くサトウさん。同じ道でも、目の向け先がこんなに違うものかと改めて驚きがありました。
目の前のものをじっくり見る楽しさも、見えないものを想像する楽しさも、どちらもまち歩きの醍醐味!ふたつの歩き方を、交互に試してみたくなる回でした。

こころに残る門前仲町〜清澄白河の風景

村田のミカタ:波をモチーフにしたガードパイプが設置されている江東区。波の形をした影が涼しげ。
SABOTENS
路上観察ユニット

SABOTENS / SABOTENS

2016年結成。「落ちもん写真収集家」の藤田 泰実(よっちゃん)と、「路上園芸学会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。… 会」の村田 あやこ(あやちゃん)による路上観察ユニット。室外機やアロエ、選挙ポスターなど、組み合わせると路上あるあるな風景が作れる「家ンゲイはんこ」をはじめ、路上をテーマにしたグッズ制作や国内外での作品展を行う。

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